初めてお越しになった方に書いていただく問診票に、ときどきこんな一行が並びます。
「お腹が空くと、みぞおちのあたりがキリキリする」「何か口に入れると、すーっと軽くなる」。
出雲市の鍼灸院・山岡鍼灸院、院長の古瀬です。臨床歴7年・延べ10,000件超のなかで、この「空腹のときだけ痛む胃」というお話は、決して珍しいものではありません。今回は、そうした方にお会いしてきて現場で感じている3つの共通点と、ご自宅でできる工夫をお伝えします。
その前に。先に医療機関へご相談いただきたいサイン
空腹時の胃の痛みは、胃や十二指腸の粘膜の状態が関係していることがあります。まずは次のようなときは、様子を見ずに医療機関を受診してください。
- 黒いタール状の便が出た、便に血がまじる
- 吐いたものに血やコーヒーかすのようなものがまじる
- 冷や汗が出るほどの強い痛みが続く
- 食べていないのに体重が落ちてきた
- 痛みが月単位でだんだん強くなっている
- 市販の胃薬を飲み続けても変わらない
ここから先は、検査を受けて大きな問題は見つからなかったけれど、空腹になると胃がつらいという方に向けたお話です。検査で異常が見つからない胃の不調については、機能性ディスペプシア(FD)の鍼灸のページでもご説明しています。
施術の現場で感じる、3つの共通点
同じ「空腹時の胃の痛み」でも、背景は人それぞれです。それでも、お体を拝見していると、重なりやすい特徴がいくつかあります。あくまで私が現場で感じていることで、すべての方に当てはまるわけではありませんが、思い当たる方もいらっしゃるかもしれません。
共通点1|肩甲骨の間が、板のようにかたい
いちばん多く感じるのがこれです。うつぶせになっていただくと、背中の真ん中あたり、左右の肩甲骨にはさまれた部分がかたく張っている。ご本人は「背中は別につらくないです」とおっしゃることも多いのですが、押してみると「あ、そこは痛いです」となる方が少なくありません。
胃のあたりの感覚と背中は、神経の通り道の上で近い場所にあります。胃の調子が長く続かないとき、背中側にもこわばりとして表れることがあると考えられています。この関係については、胃もたれが続くのは胃だけの問題じゃないの記事でもくわしく書きました。
共通点2|食事の間隔が、日によってバラバラ
お話をうかがうと、「昼を抜くことが多い」「夕食が21時を過ぎる」「休みの日は1日2食」という方が目立ちます。忙しい方ほど、そうならざるを得ない事情があります。
胃は、食べものが入ってこない時間にも準備運動のような動きをしています。空っぽの時間が長く、日によっても違うと、胃の側もリズムをつかみにくくなるのではないか。問診をしていると、そんなふうに感じます。
共通点3|「また痛くなるかも」と、身構えている
3つめは、体の状態というより気持ちの話です。一度つらい思いをすると、「今日は大丈夫かな」と無意識に構えるようになります。すると呼吸が浅くなり、みぞおちのあたりに力が入りやすくなります。
実際、施術台の上でお腹に手を当てた瞬間、みぞおちがキュッとかたくなる方がいらっしゃいます。「緊張しなくて大丈夫ですよ」とお声かけしてしばらく手を置いていると、だんだんゆるんでくる。痛みへの不安そのものが、体をこわばらせている面もあるのだと思います。
空腹で胃が痛むとき、体の中では何が起きている?
胃の内側は、食べものを溶かすための強い液(胃液)にさらされています。それでも胃自身が溶けてしまわないのは、粘液のバリアで守られているからです。
この「攻める力」と「守る力」のバランスが崩れると、胃の壁が刺激を受けやすくなると言われています。食べものが入っていない空腹のときは、胃液を薄めてくれるものがありません。だから空腹のときだけ痛みを感じ、何か口に入れると一時的に楽になる、ということが起こりやすいのです。
守る力を弱らせやすいものとして、喫煙、お酒の飲みすぎ、睡眠不足、そして痛み止めの常用などが挙げられています。痛み止めについては自己判断でやめず、処方された医師や薬剤師にご相談ください。
今日からできる、3つの小さな工夫
1|空っぽの時間を、つくりすぎない
食事を抜かざるを得ない日は、おにぎり半分でも、常温の牛乳でも構いません。「空腹の時間を短く区切る」という発想です。ドカ食いで埋めようとすると今度は胃が疲れるので、少量をこまめに、が目安になります。
2|背中の真ん中を、ゆるめる
椅子に浅く腰かけ、両手を胸の前で組みます。そのまま背中を丸めるようにして、手を前へ押し出す。肩甲骨の間が広がる感じがあればじゅうぶんです。息を吐きながら10秒ほど、1日に数回。気持ちいいと感じる範囲で行ってください。
3|みぞおちを、冷やさない
冷たい飲みものを一気に流し込む習慣がある方は、まず常温に変えてみてください。寝る前に蒸しタオルや使い捨てカイロで、みぞおちから背中にかけてじんわり温めるのもおすすめです。低温やけどを防ぐため、カイロは衣類の上からお使いください。
ストレスが引き金になりやすい方には、ストレス胃のセルフケアの記事も参考になるかもしれません。
当院では、胃そのものだけをみることはしません
当院で行っている整動鍼®は、体の動きのつながりに注目して、少ない本数で全体のバランスを整えることを大切にしている手法です。空腹時の胃の痛みでお越しになった方にも、まず体の動きと背中の状態を確かめるところから始めます。
あわせて、お腹に手を当てる腹診で、みぞおちの張り、お腹の冷え、押したときの感じ方をみていきます。同じ「胃が痛い」でも、みぞおちがカチカチの方と、力なくペコッとへこむ方とでは、お体の状態が違うからです。
背中や体の緊張がゆるむことで、胃のあたりの感じ方が変わってくることが期待されますが、変化の感じ方には個人差があります。
まとめ
空腹になると胃がキリキリする。この訴えでお越しになる方には、背中の真ん中のこわばり、食事の間隔の不規則さ、痛みへの身構えという3つが重なりやすい、というのが現場での実感です。
まずは受診が必要なサインがないかを確かめること。そのうえで、空っぽの時間を短くする、背中をゆるめる、みぞおちを冷やさない。どれか1つでも、今日から試していただけたらうれしいです。
参考資料
- 厚生労働省「たばこと健康に関する情報ページ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/tobacco/index.html - 厚生労働省「睡眠対策」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html
※本記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断や治療に代わるものではありません。症状が続く場合は医療機関にご相談ください。
同じお悩みでお困りの方へ
出雲市の山岡鍼灸院では、胃腸・自律神経の不調に特化した整動鍼®施術を行っています。
