施術を受けている最中に「あれ、今ちょっと鍼が動いた気がする」と感じたことはありませんか。出雲市の山岡鍼灸院院長・古瀬が解説します。患者さんからいただくご質問にお答えしているシリーズの第26回です。
「動いた気がする」は、気のせいではありません
鍼は、刺したらそのまま置いておくだけ、と思われていることが多いように感じます。ですが実際には、刺したあとに鍼を少し動かしたり、指先で向きを確かめたりする場面があります。ですから「今、動いたかも」という感覚は、気のせいではないことがほとんどです。
この動かす操作は、鍼灸の世界では昔から行われてきた手順のひとつです。鍼を置いたままにしておく時間については、以前に「鍼を刺したまま、どのくらい置くの?」というご質問でもお答えしました。今回はその前段にあたる、「動かす」ほうのお話です。
鍼を刺したあとに少し動かす、3つの理由
大きく分けると、次の3つの意図があります。
1. ねらったツボに届いているかを確かめるため
ツボの位置は、教科書の図のとおりにミリ単位で決まっているわけではありません。その日の体の状態や、筋肉の張り方によって、届いてほしい場所は少しずつ変わります。そこで鍼を刺したあと、深さや角度をわずかに調整して、ねらったところに届いているかを確かめます。どれくらい深く刺すのかという感覚も、この確認とあわせて決めていきます。
2. 力の入っている筋肉にやさしく働きかけるため
こわばっている筋肉に対しては、鍼をほんの少し動かすことで、その部分にやわらかく働きかける意図があります。強く揺さぶるようなものではなく、あくまで静かな操作です。人によっては、このときに「ズーン」と重く広がるような感覚が出ることがあります。これがいわゆる「響き」と呼ばれる感覚です。
3. 刺激が強くなりすぎないように調整するため
動かすのは、刺激を強めるためだけではありません。むしろ逆で、その方にとって刺激が過剰にならないよう、手前で止めるための調整であることも多くあります。はじめての方や、体が疲れている日は、より控えめに整えていきます。
「効かせる」より、静かにスイッチを押すような感覚
「グッと効かせたほうが効果がありそう」と思われる方もいらっしゃいますが、私はそうは考えていません。強い刺激が、そのまま良い変化につながるとは限らないといわれています。鍼を動かすのは、体が本来持っている働きが出てきやすいように、静かにスイッチを押すような感覚に近いものです。
当院が大切にしている「治す」ではなく「整える」という考え方も、ここにつながっています。どこにどう鍼を置くかは、その日の体の状態によって変わります。だからこそ、刺してからの手の中の感覚を、毎回確かめています。
気になったときは、その場で声をかけてください
施術中に「今のはなんだろう」と思ったら、遠慮なくそのまま口に出してください。少し響きが強いと感じたときも同じです。お伝えいただければ、その場で加減を変えることができます。
逆に、何も感じないからといって心配される必要もありません。感じ方には個人差があり、ほとんど何も感じないまま終わる方もいらっしゃいます。はじめての方の当日の流れもあわせてご覧いただくと、全体像がつかみやすいかもしれません。
見ているのは、鍼先だけではありません
臨床歴7年・延べ10,000件超の施術に携わるなかで感じるのは、鍼を動かしたときの手ごたえは、その方の体の状態をそのまま映しているということです。同じツボでも、張っている日とゆるんでいる日では、指先に返ってくる感触がまったく違います。
当院には、過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシアといったお腹の不調、自律神経の乱れでお悩みの方が多く来られます。こうした不調は日によって波があることも多いため、その日の反応を見ながら手を加減することを、とくに大切にしています。
いますぐ受けにいらっしゃらなくても構いません。鍼灸を受ける機会があったときに、「そういえば、刺したあとに動かすのには理由があると書いてあったな」と思い出していただけたら、それだけでうれしく思います。
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、効果には個人差があります。気になる症状が続く場合は医療機関にご相談ください。
元記事:noteで読む
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